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トランプ大統領によるアメリカ市民権出生地主義の制限

アメリカの市民権・国籍は出生地主義(国籍取得において出生した国の国籍が付与される方式)を取っています。要するにアメリカ領地内で生まれた者は、すべてアメリカ国籍が付与されるということです。

ちなみに日本は血統主義(出生時の国籍取得について、親の国籍を継承する方式)を取っています。血統主義の場合、仮に外国人が日本国内で子どもを生んでも、その子どもには日本国籍は付与されません。

 

この度トランプが大統領令(Executive Order)により、非合法移民・期間限定ビザの移民のアメリカ内で生まれた子どもに対する市民権付与を止めることを検討しているとの発言をし、大きな注目を浴びています。

www.axios.com

 

なぜこの発言が問題になっているかというと、アメリカ合衆国憲法修正第14条で、下記のように記されているからです。

第1節、アメリカ合衆国で生まれ、あるいは帰化した者、およびその司法権に属することになった者全ては、アメリカ合衆国の市民であり、その住む州の市民である。如何なる州もアメリカ合衆国の市民の特権あるいは免除権を制限する法を作り、あるいは強制してはならない。また、如何なる州も法の適正手続き無しに個人の生命、自由あるいは財産を奪ってはならない。さらに、その司法権の範囲で個人に対する法の平等保護を否定してはならない。(ウィキペディア)

英語文面:"All persons born or naturalized in the United States, and subject to the jurisdiction thereof, are citizens of the United States and of the State wherein they reside."

”アメリカ合衆国で生まれ、あるいは帰化した者(All persons born or naturalized in the United States)”の部分は自明的です。

"およびその司法権に属することになった者(and subject to the jurisdiction there of)"という部分が、キーポイントになります。

 

トランプ政権の主張は、違法移民の元に生まれた子どもは”その司法権に属することになった者”という条件を満たさない、というものです。

 

そもそも、合衆国憲法はアメリカにおける法の原則・大枠を定めるもので、すべてのシナリオを網羅しているものではありません。連邦法・州法等が、憲法に基づきその隙間を埋めています。

例えば、アメリカ人の両親がアメリカ国外で子どもを産んだ場合、現行法ではその子どもにアメリカ国籍が付与されますが、憲法にそう明確に書かれている訳ではありません。憲法には解釈の余地が残されている訳です。

片親のみアメリカ人でアメリカ国内で生まれた子どもの場合、片親のみアメリカ人でアメリカ国外で生まれた子どもの場合など、細かくアメリカ国籍付与の権利が現行法で定められており、現行法では、両親の国籍に関わらず、アメリカ国内で生まれた者にはアメリカ国籍が付与されます。(参照:https://www.usconstitution.net/consttop_citi.html

 

問題のトランプ政権の主張の”その司法権に属することになった者”という条件ですが、これは、単純にアメリカの法律に従う者という意味ではなく、アメリカ合衆国に臣従する者という解釈になります。(外国籍でもアメリカ内ではアメリカの法律に従うのが当然のため)

この条件から外れる明確な例は、他国からの外交官がアメリカで子どもを産んだ場合です。外交官はアメリカ国内にいてもアメリカに臣従している訳ではなく、その子どもにはアメリカ国籍は付与されません。

前置きが長くなりましたが、それではトランプの標的となっている違法移民の元に生まれた子どもはアメリカに臣従していると言えるのでしょうか?

私の個人的な見解は、”子どもはどの国に臣従をするという明確な意思は持っていないため、条件を満たしているとも満たしていないとも言えない”です。そうであるならば、違法移民・期間限定移民の子どもには、暫定的にアメリカ国籍を付与し、成人時に正式に国籍を選択させる、というのが一番フェアだと思います。

もちろんその運用が現実的に可能か(※)については考慮が必要かと思いますが、トランプの一方的な解釈には断固反対です。

 

※ちなみに、日本人の子どもがアメリカ国内で生まれた場合、アメリカ的には出生地主義でアメリカ国籍付与、日本的には血統主義で日本国籍付与となり、暫定的二重国籍となります。アメリカ政府は(正式な法として認めている訳ではないが)二重国籍を実質許容していますが、日本政府は許容しておらず、日本の法律で22歳になる前に国籍選択をしなければいけないことになっています。